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柊鬼は大きく息を吐き「そろそろ行くわ」と、お茶を飲み干した。
「どちらへ?」
「俺の誕生日は明日なんだろ?なら行くとこは一つだ」
「・・・例の方、ですか」
先ほどの苦しげな表情とは違い、苛立ちで顔を歪ませる。
「たしかに彼も古角の者ですが、貴方様とは立場が違います」
ただの人間ですよ、と言う与波に対して柊鬼は、ただの人間ねぇ、と鼻で笑う。そして畳に手を置いて立ち上がり、襖を開けた。
向こうには廊下と広い庭があり、朝の時よりも柔らかい陽が降り注いでいる。
「そう言ったらお前だって俺にとっちゃぁただの人間だ」
その陽を浴びる草花に目をやりながら柊鬼は言う。
「人間なんざ鬼の俺に血を与える役目を担った弱き動物と同じ」
小さな鳥が翼をはばたかせ木の枝にとまり、唄を奏でる。もしかしたらそれは仲間を呼んでいるのかもしれない。またはここは己の縄張りだと主張しているのか。
「鬼である俺と平等な生き物なんざぁ今の世に在るのかよ」
「・・・気分を害しましたか」
与波は正座をする膝の上に握りこぶしを置いて柊鬼の背中を見つめて言う。それを横目でチラリと見た柊鬼は「いいや、」と口角を片方吊り上げた。
「お前は変わらねぇなってハナシだよ」
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