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彼――古角志貴(ふるずみしき)は呆れるようにそう言うと、でもまぁ、と言葉を続けた。
「久しぶりだね、柊鬼」
「あぁ。元気にしてたか」
「ぼちぼちね」
二人は拳を作り、トン、とぶつけ合う。
彼はそういうことが出来る、否、してくれる唯一の友達であった。
柊鬼は志貴と同じように幹に背中を預けて風を浴びながら「今年も近くのホテルか?」と聞けば、彼は「うん、もうフロントの人と顔馴染みだよ」と笑った。
「毎年同じところに泊まるから、部屋も用意してくれているしね」
「お前だけ此処に泊まればいいのに」
「それは出来ないよ」
ここは御当主様のお家だから。
そう言う志貴の声音はふざけ半分なもので、柊鬼はうるせー、と肘で彼を突いた。
明日の集まりの為に遠方から来る古角も少なくはなく、志貴もその一人なのである。
「―――もう柊鬼も二十二歳かぁ」
「ンだよお前もそれぐらいだろ?」
「歳の話しじゃなくて、僕らが出会ってから長いなぁって思って」
懐かしそうに眼鏡の奥の瞳を細める彼に、柊鬼もそうだな、と返す。
志貴と出会ったのは十年くらい前のこと。
明日のように古角一族が集まっている日だった。
『なんだ、お前』
皆の挨拶が終わり、部屋へと戻る時。彼は廊下でキョロキョロと不安そうに辺りを見回していた。
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