昔から伝わる話

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昔から伝わる話

 それは、昔むかし。遠い昔の話しである。  その時代には物の怪であり、神でもある〝鬼〟が在ったという。  鬼は人間を食らっては弄ぶかのように殺す〝恐怖〟の存在であり、だがそれと同時に人間の手の届かぬ存在――神として崇め奉る存在でもあった。  いつからだっただろう。  禍(わざわい)を持たんとする神に生贄を与え、それらを鎮めようとするようになったのは。 それは鬼とて例外ではない。  人間は白羽の矢が立った人間の一族を生贄として鬼に血肉を与え、彼らを鎮めるようにしたのだ。 その一族の名は〝與波(よなみ)〟  與波は代々鬼の為に命を受け、血肉となるために生き、そして鬼と交わり子を成すようになった。 その生き方はまさに〝与える〟がためのもの。いつしか與波は〝与波(よなみ)〟と呼ばれるようになり、与波一族には鬼にその命を捧げるよう血の印(いん)――呪いが施されたのであった。  しかし鬼と与波が交わり子を成すということは、鬼の血に人間の血が混じるということで。いつしか生まれるのは鬼ではなく、人間に変わっていったのである。  その人間が別の人間と子を成せば、また生まれるのは人間。 だんだんと鬼の存在は薄れ、それらを知るのは鬼から生まれし人間と、それらを育てる与波一族だけとなってしまった。  だが鬼の血が消えたわけでも、そして血の呪いが消えたわけでもない。  人間と人間のあいだから生まれた子であっても、その根源が鬼に辿り着くのであれば、鬼が生まれる時がある。  鬼の赤子は母乳を飲まず、与波の血しか喉を通さぬという。これもまた鬼の呪いであろう。  そのため鬼から生まれし人間の一族は常に与波一族を傍に置き、生まれた子が鬼ならば、代々伝わるソレと同様その鬼子に血を与える役目を担わせた。  そしてその鬼子は鬼から生まれし人間の一族の当主として崇め奉られ、年に一度、一族の人間は頭(こうべ)を下げに行くようになったのだ―――禍が己らに降り掛からぬように。  その鬼が生まれし人間の一族の名は〝古角(ふるずみ)〟という。  これは、鬼の血に呪われ生まれてしまった鬼の物語である。 『 (くれない)の涙 』
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