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「お疲れさま」
「……先生」
アルバイト後、先生は私を彼のマンションの下に立ち、待っていた。
「ずいぶん寒くなったね」
「うん」
先生が私の手を優しくとった。
「先生の手、温かい」
「カイロで温めてたから」
「私のために?」
先生が“そうだよ”と言うように、笑った。
胸が熱くなる。
「温かい」
もう一度言い、彼の手を頬に付ける。
先生が穏やかな笑顔を見せた。
先生に好きだと告白されてひと月が過ぎた。
季節は秋から冬へ変わろうとしているが、私の心は今、春のように明るく温か。
「帰ろうか、送るよ」
「ありがとうございます」
だがただ一つ気になることがある。
先生と私はもう教師と生徒でないのに、なかなかそこから抜け出せない空気がある。
呼び方は昔と同じ。
高校生の頃のように、無邪気に彼を名で呼べない。
それに、デートは土曜のアルバイトの後外食をするだけ。
私はもっと先生との繋がりがほしいと思っていた。
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