ヒトシズク

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「りゅーくん、電話」  歴史の教科書をちょっと繰ればわかる話。  乱世の只中で俺が命を懸けて護ったひとはその後、唾を吐きつけんばかりに忌み嫌っていた男に娶られ、子を儲け、生涯をヤツの隣で過ごした。  一方の俺は、あのひとの顔を見ることさえままならないくらい身分の低いただのエキストラだった。もちろん教科書に名前はない。  でも本当に俺たちはお互い好き合っていた、はずだった。  なのに数百年経って生まれ変わりようやく再会できたと思ったら、あいつは俺のことなんかすっかり忘れてて。  覚えているのは、俺だけ。  身を切られるような未練と痛みに未だ血を流しているのは、俺だけ。 『もしもーし。誕生日おめでと!』  そうやって脳天気に、何も知らずに、今日という日を他の誰かと過ごしてるんだ、お前は。  ため息混じりに見上げる空は夜だというのに、雪のせいかほんのり明るい。  俺が最期に見た景色もそうだった。  目を閉じれば、一方的に喋ってるあいつの声。  あの最初で最後のぬくもりの中で、来世に全ての望みを託したはずだったのに。  そうやって今年も、俺は死んでいく。
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