第二十章 君が許すまで 五

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 俺のせいではないだろう。俺が蛇の横に行くと、蛇は尾で俺を背に乗せた。  俺も疲れていたのか、蛇の背に乗ったままで眠ってしまった。  目が覚めると、目の間に氷渡の顔があり、慌てて飛び起きると志摩の手の中であった。志摩の手の中ならば、誰がいても心配はない。  志摩の指の隙間から外を見ると、ここは市役所の会議室で、俺達の他にも寝袋で眠ってる人がいた。生活安全課の面々も来ているので、何かトラブルがあったのかもしれない。  起きている人を探してみると、生活安全課の課長の相沢が、一人で茶を飲んでいた。相沢に声を掛けようと周囲を見ると、散乱した弁当の空箱に、菓子の袋、飲み物の容器などがある。何も無かったのならば、ここまで荒れていないのではないのか。 「相沢さん、何があったのですか?」  志摩の手を抜けると、俺は自分の姿を確認する。ちゃんと、元の姿に戻っているようだ。そこで、相沢に歩み寄ってみた。 「ええと、守人様の方だね。研究所と山を、別の界に移すというのまでは、知っているよね」 「はい」  そこで、相沢が残っていた弁当を出してくれた。でも、かなり冷たくなってしまっていたので、温めようとしている。それも、サラダや葉物などを取り、分離してから温めていた。 「ここの卵焼きが、かなり美味しい。それと、芋ね……」  玉子焼きが大きい。そこで、温めてくれた弁当を食べ始める。 「どうしたものかな……ここに来ていた研究所の岡崎さんが、山の民の洞窟に行っていた」  岡崎が何故、洞窟に行ったのだろう。 「岡崎さんは、笠居さんに会いたかったようだ」  自分のせいで、別の界に行ってしまう友人に、謝りたかったのだろうか。 「そこでね……」  岡崎は笠居と抱き合い、今度こそ一緒に行くと告げたのだそうだ。そこで、笠居も頷き、長い口付けをした。 「え?ええええええ?」  そういう、ラブロマンス的な展開は想像していなかった。すると、蒔人はどうしたのであろうか。 「笠居は、これでやっと皆と死ねると言ってね、爆弾のスイッチを押していた」 「え?えええええええええええええええ?」  返す言葉が無い。どこまでも、予想と違っていた。 「蒔人君は、怒って岡崎さんと、笠居を放り出し。爆発する研究所と共に、別界に移動したよ」  蒔人の最後の善意として、爆発しながらも研究所は別界に行ったらしい。
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