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「雪、降ってきたな。」
日も沈み、街が眠りにつき始めた頃、暖と明かりの名目のためにある煉瓦の暖炉に火を入れながら彼は言った。
「ええ。…まるであの日を思い出すような。」
「俺もだ。気が合うな、俺達。」
私と彼が出会ったのはこんな雪の降る夜。この家の玄関だった。雪でびしょ濡れになっていた私に、偶々ゴミを捨てに外に出てきた彼が声をかけたのだ。
「おい、そんなとこで何してるんだ。」
「雨宿り…雪なので雪宿りでしょうか。」
彼は持っていた木箱を足元に置くと私に近づいた。
「…折角の別嬪が台無しだな。うちに来いよ。温まるくらいの場所はある。」
彼はそのまま私を部屋に連れて行き、汚れを落とし、髪をとき、化粧をしてくれた。
「ほら。俺の見立て通りだ。」
「本当に。」
そのまま彼は私を家に置いてくれた。彼は気ままな技術者で偶に外に仕事に出ていくけれど、大半は共にいてくれる。
「髪紐が解けてる。」
「ありがとうございます。」
「いつ見ても完璧な仕上がりだな。偶にお前が生きていないことを忘れそうになる。俺の機械人形さん。」
「はい。マスター。」
私はカタカタと自身をきしませながらカーテンを閉めた。
雪が音をたてずに積もっていく。明日は玄関の雪かきから始まるだろう。
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