60人が本棚に入れています
本棚に追加
【YO-JI1:河原陽二 カワハラ ヨウジ】
背負ったエレギと背中の間に汗が流れるのがわかった。教室につく頃にはビシャビシャになってる。それは毎日のこと。この季節、あと100メートルほど先から続く正門までの300メートルの登り坂は、誰だって汗だくにする。
今、俺がサドルに座ったまま自転車を停めている俺称(ミコ通)の端の角は、この時間俺のスペースだ。もう1年になる。
時計を見る。秒読み開始。10、9、8
「ヨージ(陽二)、おはよ」
時間ピッタリだ。湊 美子のメゾソプラノ。
「モーニン」
彼女の方を見ずに応える。毎朝のお約束。
湊 美子、通称ミコはいつもと同じように、俺の背中のエレギに少し触れながら坂道の方に直角に曲がる。
そんな彼女をハンドルに腕をついた姿勢で目だけで追った。
「“朝”や。今、お前がミコに言ったのは、“朝”。正しくはグッドモーニングや」
いつものように、後ろから。
「へー、へー」
何度となく聞いた同じセリフを繰り返すヨーイチ(洋一)を振り返る。
「さて、行きますか」
俺の言葉にヨーイチが、自転車を少し前に出して言った。
「待て! 俺は言いたいことがあった。お前の背中にあるのはなんや?」
「エレギや」
俺の答にヨーイチは頷く。
「俺の背中にあるのはなんや?」
「エレベ」
また頷く。
「どっちが重い?」
「一緒やろ?」
「甘い! エレベの方が確実に重い! だから今日からお前は5秒後スタートや!」
はあ?
ヨーイチの言葉に納得しないままスタート地点へ。
「5秒後やからな!」
ヨーイチはそう言ってペダルを踏んだ。
「12345!」
早口で言って、一番高い場所からペダルを踏み込んだ。
「ウッリャー!!」
叫びながら、少しだけ前を同じように叫びながら走るヨーイチのエレベを追う。今日勝てば180勝目。180個目のヤクルトGET!
最初のコメントを投稿しよう!