【YO-JI1:河原陽二 カワハラ ヨウジ】

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 【YO-JI1:河原陽二 カワハラ ヨウジ】

 背負ったエレギと背中の間に汗が流れるのがわかった。教室につく頃にはビシャビシャになってる。それは毎日のこと。この季節、あと100メートルほど先から続く正門までの300メートルの登り坂は、誰だって汗だくにする。  今、俺がサドルに座ったまま自転車を停めている俺称(ミコ通)の端の角は、この時間俺のスペースだ。もう1年になる。  時計を見る。秒読み開始。10、9、8 「ヨージ(陽二)、おはよ」  時間ピッタリだ。(ミナト) 美子(ヨシコ)のメゾソプラノ。 「モーニン」  彼女の方を見ずに応える。毎朝のお約束。  湊 美子、通称ミコはいつもと同じように、俺の背中のエレギに少し触れながら坂道の方に直角に曲がる。  そんな彼女をハンドルに腕をついた姿勢で目だけで追った。 「“朝”や。今、お前がミコに言ったのは、“朝”。正しくはグッドモーニングや」  いつものように、後ろから。 「へー、へー」  何度となく聞いた同じセリフを繰り返すヨーイチ(洋一)を振り返る。 「さて、行きますか」  俺の言葉にヨーイチが、自転車を少し前に出して言った。 「待て! 俺は言いたいことがあった。お前の背中にあるのはなんや?」 「エレギ(エレキギター)や」  俺の答にヨーイチは頷く。 「俺の背中にあるのはなんや?」 「エレベ(エレキベース)」  また頷く。 「どっちが重い?」 「一緒やろ?」 「甘い! エレベの方が確実に重い! だから今日からお前は5秒後スタートや!」  はあ?  ヨーイチの言葉に納得しないままスタート地点へ。 「5秒後やからな!」  ヨーイチはそう言ってペダルを踏んだ。 「12345!」  早口で言って、一番高い場所からペダルを踏み込んだ。 「ウッリャー!!」  叫びながら、少しだけ前を同じように叫びながら走るヨーイチのエレベを追う。今日勝てば180勝目。180個目のヤクルトGET!
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