プロローグ〈20years later〉

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プロローグ〈20years later〉

 新大阪駅から乗った電車は大阪駅に着いた。吐き出されるような人の波とそれを待てずに乗り込もうとする人の波。肩がぶつかる。  さすが大阪。この図々しさと厚かましさは、好きではなかったはずが懐かしい。愛しくさえなる。  ホームに降りて驚いた。   なんだ? このホームは、ここはどこだ?  なんだ? シースルーのエスカレーター?  なぜ上に上がる? 乗り換えも改札も下に降りたじゃないか。  薄汚れた通路にシュークリーム屋があって、豚まん屋があって、古い喫茶店。  人の波に押されるように、存在していなかったエスカレーターに乗った。  なんだ、ここは? 周りを囲む洗練されたビル。  なんだ、ここは? 俺の故郷はどこにいったんだ?  俺たちが待ち合わせた、薄汚れたえんじ色のソファの煙草臭い喫茶店はどこに行ったんだ?  ポケットから二つ折りにしたはがきを出して開く。上に上がったのは正解のようだ。改札を出てまっすぐに進んだ。  グランフロント―どこだ? それは。  あたりまえのことだ。人が生きて成長するように街も生きている。だから変わっていく。そこで暮らしていれば、その街の一員であれば、変化には徐々に慣れていく。  驚きがあるということは、俺は既に他所者(よそもの)だということ。  あたりまえだ、20年。この街に戻らなかった。消えると決めた自分自身に正直であり続けた。  はがきにある店を目指す。グランフロントとやらの一番奥。     
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