これであんたは、

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「今日は、特別な日だ」 重低音が、楽しそうに響く。 「そうですね」 倣って、笑う。 手には冷たくて、重くて、黒く光るそれがある。 「万が一にも、失敗することのないように」 澄んだ声が後ろから俺を煽る。 「わかってるって。じゃ、行ってきます」 車から出て、通りを歩く。 見知った通りだ。だって、ここは、 「あ、すみません」 勢いよく曲がり角から飛び出してきたその人は、よく知っている、 「あんた、大丈夫?」 顔色の悪い青年が、地面を見つめて、いや、大丈夫です、と呟いた。 「ね、あんた、誰か探してるんでしょ?俺、知ってるよ」 そう言うと、がばっと顔を上げて、教えてくれ、なんでもいいから、と強く腕をつかんできた。 はは、相当弱ってるな。ざまあみろ。 「じゃあ、ちょっとこっち来てよ。あんまり知られたくないんだって」 腕を振り払って、駆け足で通りを進む。 人通りの少ない小道まで駆けて、小さなボロい車を見つけると、止まる。 振り返ると、その人は息を荒くして、でも、ついてきていた。 「……なあ、教えてくれ。あの子は、」 「ふ、あんた、何で気づかないの?」 フードを被っていたからなんて言うなよ。あんたの前だって、フードを被っていたことあるだろ。 フードを外して、その人を見つめる。 その人は、じっと俺の顔を見て、息を呑んだ。 「ああ、ああ、良かった。なあ、怒らないから、理由も聞かないから、戻って来てくれないか」 目に涙を浮かべてそう言うその人に、俺も見つめ返して、顔を近づけて、囁いた。 「全部、夢なんだよ、あんたの」 そっと手をその人の瞼の上に置いて、ゆっくり、染み込ませるように、囁く。 「おやすみ」 手を外すと、その人は目を閉じていて、でもすぐに目を開けた。 「何を、言ってるんだ、」 当然そう言うだろうと思っていた。でも、もう終わりだ。 さよなら、俺の愛した人。 「初めまして、殺し屋です」 手にした黒いそれを、その人の胸に押し当てる。 渇いた音が1度、静かな通りに響いた。
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