甘くて、しょっぱい

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彼女がいた頃は、リビングにはやたらゴテゴテ派手派手しい小物が部屋を埋め尽くしていた。 テレビも、彼女がいると好きな番組が見られないし、風呂上がりにパジャマを着ずに出るとさんざん文句を言われた。 片付けろと言うと、彼女の私物に比べたらはるかに少ない俺のコレクションを引き合いに出して言い返された。 わがままで気が強くて困った子だった。 反面、寂しがり屋で甘えん坊でほっとけない子だった。 そのくせ、俺の前では涙を見せないから、彼女の寂しさを随分見逃してしまったことだろう。 仕事にかまけず、もっと気にしてやれば良かった。 ああすれば、こうすれば、そんな思いが次々浮かんでくるけれど、もう俺がしてやれることはない。 彼女の寂しさを受け止める役目は、もう俺ではないのだ。
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