片恋。

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恋だの愛だのが自分が思っていたよりずっと残酷だなんて、この年になるまで知らなかった。誰かと誰かが恋に落ちる傍らで嘆く人がいるなんて、ましてやそれが自分になるだなんて、知らずにいた。 俺には幼馴染みがいる。純粋で、一生懸命で、いつも明るくて可愛い女の子。朝は、俺の自転車に乗せて登校し、昼休みは一緒にお弁当を食べ、放課後は図書室で勉強をする。お互いの部屋に自由に出入りするし、休みの日は野球観戦やカフェ巡りをする。 だから、テレビや雑誌越しで繰り広げられる、チープな恋愛劇のように、俺と彼女が辿り着くのハッピーエンドだなんて、信じて疑わなかったのだ。 「奏汰!あのね、私、昴君と付き合うことになったの!告白、OKしてもらえたんだ!!」 告げられたのは、3週間前。あの日、あの時に俺の考えは単なる思い上がりだったのだと思い知らされた。俺が彼女を女の子、つまりは異性としてみていたのと同じく、彼女も俺のことを男としてみているなんて。 俺は彼女の全てを知っているだなんて、とんでもない勘違いをしていた。それどころか、俺は彼女が昴に恋をしていたなんて欠片も気付かなかった。17年も一緒にいたのに。なんて浅はかで恥ずかしい男だろう。 昴はいいやつだ。サッカー部のレギュラーで、成績はいつも上位。彼なら必ず彼女を幸せにしてくれるだろう。17年も一緒にいたのに、彼女の気持ちに気付かなかった俺なんかより、ずっと。 俺の気持ちに気付かなかった彼女も、彼女を奪っていった昴も、恨まない。俺の思い上がりを、幼馴染みという立場に胡座をかいて何もしてこなかったことを、後悔するだけだ。 幸せになってほしい。彼女には。もしこの先2人が別れる結末になったとしても、それまでは、彼女があの純粋な笑顔を見せてくれればそれでいい。 俺は2人の傍らで恋人たちの幸せをただ祈っているから。
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