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そこには既に依頼人たるミカ・ウィンター女史が来ていた。
彼女は地面を見ながら、不安そうな表情を浮かべている。
だが彼女が不安になるのも仕方がない事だった。
何故なら彼女の見詰める地面には、明らかに異常というべき、ちょっとしたドームサイズの巨大生物の足跡が、刻まれていたからである。
このサイズは今や殆ど姿を見なくなったドラゴン級はあろう怪物のものだろう。
しかし、ミカ・ウィンター女史は訪れた私を見るなり、何故かこの足跡を見た時以上の驚愕の表情を浮かべる。
「どうかなされましたか、ウィンター女史?
( ´,_ゝ`)」
私は彼女の事が気になり、声をかけた。
だが、彼女は逆に心配そうな表情で私に言う。
「あの....何で、そんな物をーー!?( ´;゚;∀;゚;)
まさか、それで戦うおつもりなのですか!??」
「えぇ、まぁ....私は強すぎますのでハンデは必要なのですよ。
それは魔獣が相手でもです。
何者に対しても最大限の敬意を払うーーそれが、真の紳士たる者の道ではないでしょうか?
(´(ェ)`)」
私は持参した食事用のフォークとナイフを握り絞めながら、落ち着いた口調で彼女へと、そう告げる。
次いでに言うならば私は背中に中華鍋と、お玉も背負っていた。
実の所、ウィンター女史に言った事は、真実の欠片もない虚言の中の虚言である。
何せ実際は金が無くて、愛用の武具を質に入れてしまっており、それを買い戻せないばかりか、貰ったお金は没収されてしまい武具の代用品も買えないというのが真実なのだから。
故に、はっきりいってやりようがない。
とはいえ丸腰という訳にもいかないので、仕方がなく私は、手持ちの金と事務所にある物で何とか見繕う事にしたのだが....。
その結果が、この有り様である。
冷静に考えたら、絶望しか残らない。
この状況を見たらならばマトモな者は「旨い料理を作って、改心でもさせるつもりか?」
そんな突っ込みの一つも入れたくなるに、違いあるまい。
最早、笑うしかなかった。
だが、現状が絶望的であったとしても私には依頼人を、安心させる義務がある。
しかし、この現状で安心感を持ってもらう手段は、そう多くはない。
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