小説の無いセカイの君へ 1章

3/9
前へ
/22ページ
次へ
僕は幼いころから、目指すべき将来を決めていた。 部屋の天井いっぱいに星を飾っていたんだ。 あそこを目指すよ、とね。 つまり、宇宙へ旅立つ未来を夢見ていた。 それを想像するだけで心は光速を越え、はるか彼方にある星々の大海を夢遊(むゆう)するんだ。 これは友達にも言ってないからね。 なぜかって? 世界でいちばん内気だからさ。 だけどね、幼いころからの宇宙への憧れは、保存料が入ってなくてもいつまでも新鮮だった。 でも神様は、人の可能性に嫉妬するらしい。 せわしなく羽ばたこうとする想像の翼は、酔っ払いが運転するトラックが潰してしまった。 「息子の未来を返して!」 聞いたこともない大声で、お母さんが怒鳴った。 ボロボロと涙を流しながら、酔っ払いの運転手につかみかかる。 お母さんのそんな姿を見るのは二度目だ。 心に絆創膏は貼れない。そこにもう手が届かないんだ。 頭から下の体が動かなくなったから。 「残念です。脳障害による全身不随です」 お医者さんの言った言葉で、お母さんが泣き崩れた。 想像してほしい。自分の身体が人形みたいになった気持ちを。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加