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私は毎日、あれによって抉られ開いた、深淵へと続いているようにさえ思える暗い穴ぐらをのぞき込む。
あれがなみなみと溜まり、数センチ下すら見通すことの叶わない闇を湛える水面。狂乱し、跳梁跋扈する異形の群れが吹き溜まり、渦を巻きながら沈んでいく。無数の骸、狂気と憎悪、血と脳漿。目を向けることさえ憚られる有象無象が、あの邪悪極まりない液体によって混沌となって沈み、この星の全てを無慈悲に穢していく。
そうして、この星は悍ましい穢れと狂気の宝玉となる。
そんな破滅がありありと予見できるのに、ただただ虚無(むな)しいだけなのは、あの厭らしいニヤニヤ嗤いを浮かべる異形の神にとっては、この破滅もいい退屈しのぎに過ぎないのだし、無限の宇宙の中心で惰眠を貪る魔王に至っては、辺縁で跳ね回るボウフラが死んだ程度のことだからなのだろう。
この悍ましい災厄は何故突如として始まったのか。
外なる神々のメッセンジャーにして魂。這いよる混沌の気まぐれなのか。
沸騰する混沌の中心。盲目にして白痴の神。究極の魔王の癇癪なのか。
私は唯一人、絶望に浸りながら空を見上げる。
変わり果ててしまった大空が見えた。
歪み、ひび割れた空からこの世界を侵食するもの。
天空より降り注ぐ尽きることを知らない闇よりも暗い奔流。
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