第1章

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「医者がさじを投げた。もう長くない」 「そりゃ、お気の毒に」 佐藤はあまり腕がいいとは言えない弁護士だが、一つだけ才能がある。彼が気の毒に、と言うときの顔が本当に気の毒そうに見えるのだ。だから、うっかり自分が気の毒な人間なのだと思う。佐藤本人が本当に気の毒だと思っているかどうかは分かったものじゃない。その証拠に彼はぼくにメモリを渡すなり、飛ぶような勢いでオフィスから走り去った。 大事な夕食会があるのだろう。世の中は大事な夕食会で溢れている。 ぼくはメモリを端末に差し込み、浅田の家政婦の記憶を眺めた。その作業は明け方近くまで続いた。
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