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目の前を快速電車が走り抜ける。ラッシュの時間帯を過ぎたホームは閑散としていた。アナウンスと電車の撒き散らす騒音だけが響く。
今この一歩を踏み出してしまえば、俺の人生は終わる。
そうやって3年前の今日、あいつは俺の目の前で人生を終わらせた。一瞬の出来事で、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
ゆっくりと停車した電車に乗り込んだ。
今日は、特別な日になる。
線香の煙がゆらゆらと風に漂う。墓前にあげた花の香りが鼻腔をくすぐった。命日なだけあって、すでに誰かが来ていたのだろう。墓石は綺麗に磨かれ、鮮やかな花が手向けられていた。
「今まで来られなくてごめん…」
ずっとここに来る勇気がもてないまま3年もの月日がたった。いや、向き合う勇気が持てなかったと言った方が正しい。俺の目の前で死んでいったお前と。
あいつは幼馴染ってやつで、小さい頃から一緒だった。泥まみれになって怒られたり、テストで競ったり。思春期には恋愛相談なんかもした。何度か大喧嘩もしたけれど、離れたことなんてなかった。毎日のように会って、お互い隠し事なんてないと思っていた。でも、そう思っていたのは俺だけだったのかもしれない。
何かを抱えていたのなら、死ぬほど悩んでいたのなら、少しでもいいから話して欲しかった。俺はそんなに頼りなかったのだろうか、お前に距離を感じさせていたのだろうか。
「ずっと、好きだったんだ。」
アナウンスが響くホームで、あいつはそう言って俺にキスをする。突然のことに驚いた俺に悲しそうな微笑みを向けて、あいつは白線の向こう側へと一歩を踏み出した。
「ごめんね。」
そう小さな声で呟いて。
ホームに悲鳴が満ちる。ばたばたと駅員が駆けつけてくる。どす黒い赤が視界を染めて、俺は。
「……なあ」
どうしてあの時、俺の言葉を待たなかったんだ。俺の答えなんて関係なかったのか。
あと少し、数秒でいいから待っていてくれれば、
(俺も、好きだって伝えられたのに)
伝えられていたら、違う今があったかもしれない。
終わりなんて一瞬だ。それでも俺は踏み出すことができない。どうしようもない喪失感と、あいつと過ごした時間を胸に抱えて生きていく。
もう少し年月が過ぎて、あいつのところに行く日が来たら。その時は、伝えられるだろうか。
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