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銀桜の木の下で
「強い寒波の影響により、各地で朝から雪が降り始め、昼過ぎから夜にかけて数十センチの積雪が見込まれるでしょう。外出される方は、足元に気をつけて早めの帰宅をおすすめします」
飾り気のない白い壁の病室の一角で、私はベッドの上で寝ていた。
誰かがつけたテレビから天気予報が聞こえてくる。
隣では患者同士が話をしているようだ。
「寒いと思ったら、今日は雪ですか」
「このあたりで雪だなんて、三年ぶりらしいですね」
窓の外は、今にも降りだしそうな空の色をしていた。
「失礼します」
車いすを押しながら、看護婦の岸井さんが病室に入って来た。
交通事故にあって、私がこの病院に入院したのは、前の年の夏頃。
その時から、岸井さんは私の手助けをしてくれたり、励ましてくれたりした。
けれど、辛いリハビリと夢への絶望感で、私はとっくに諦めてしまっていたのだ。
事故で足を怪我するまでは、バレリーナになるのが夢だった。
誰よりも練習を重ね主役になれるよう努力した。
努力が実り、その年の秋の公演には主役で踊れる予定だったが、その矢先に暴走車が私に襲いかかって来た。
その結果、無残にも足は折れ、腱も断裂してしまった。
事故にさえあわなければ、と何度もこのベッドの上で恨み言を呟いた。
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