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よくよく見ると、うちの常連客だった。
花をとても丁寧に扱う人で、いつも店長と何やら熱心に話し込む姿がとても印象的な人だ。
「こんにちは。よく来るんですか?」
「こんにちは。日曜日は必ず。」
そして、いつもその席に座っています。
と、心の中で少し嫌味を織り交ぜる。
「そうなんですね。僕は前から気になっていたので、今日は待ち合わせに使ってみようかと思って。」
あっ、と声をあげて、彼はカバンを漁って1枚の紙を取り出した。
「すみません、僕は一方的にお名前知ってましたけど、紫藤さんにはちゃんとご挨拶してないですよね。」
そう言って手渡された名刺には、「株式会社marry 白鷺光一」と書かれていた。有名なブライダル会社だ。だからうちに来ていたのか。
「これからもたくさんお世話になると思うので、よろしくお願いします。」
改めてこう挨拶をされると、なんとも照れくさいものである。私も白鷺さんに習い、取り出した名刺を手渡した。
「あ…紫藤麗といいます。改めてよろしくお願いします。」
「へぇ…紫の藤って書いて、しとうって読むんですね。下の名前といい、いいお名前ですね。」
「いやいや、白鷺さんのお名前には負けますよぉ」
妙に照れくさくなって、目をそらす。休日にお気に入りのカフェで常連客と談笑をするなんて、なかなかない機会である。
「それに、普段とは少し違った雰囲気がまたいいですね。」
白鷺さんの視線の先を辿る。そうか、いつもは黒スキニーにエプロン姿だから。
「ラベンダー色のワンピース、紫藤さんにとてもよく似合っていて素敵です。」
ストレートに褒められて急に恥ずかしくなる。
このワンピース、着てきてよかった。
いつも、やさしく花を見つめていたあの瞳が
私に向けられている。
今日は私にとって特別な日。
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