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新入生代表・近衛信介
僕が壇上に上がり一礼をすると、上級生側から盛大な拍手を送られた。用意していた原稿を開き、生徒会役員によって壇上に戻されたマイクのスイッチを入れると、僕は原稿に目を落としながら口を開き始めた。
「本日はこのような会を開いて僕たちの入学を祝ってくださり、ありがとうございます」
そう言った瞬間、1000人分の声が束になって飛んできた。
「聞こえねーぞ!」
「もっと腹から声出せ!」
「原稿ばっかり見てんじゃねえぞ!」
ブーイングの嵐に僕の足元が震えだした。
「90年を誇る伝統の学び舎でこれからの3年間を過ごせることを誇りに思います」
続けてそう話すと、
「だから聞こえねーよ!」
「こっち向いて話せ!」
「マイク使ってんじゃねえぞ!」
聞こえない、という声と、マイクを使うな、という声。えげつない二律背反が僕に襲いかかる。僕は両手が震える中、なおも原稿に目を向ける。
「だから原稿なんか見てんじゃねーよ!」
「早く何か言え!」
怒号が飛び交う中、僕は足元に原稿を落としてしまった。
「何拾ってんだよ!」
「原稿なんか見んなよ!」
僕はクラクラする頭になんとか耐えながら原稿を拾い上げたが、順番がバラバラになっておりどれがどれだか分からなくなっていた。
恐怖で頭がいっぱいになる。でも、僕にはどうしようもない。
「こ、これからもご、ご指導よろしくお願いします!」
僕はそう言って頭を下げると、拍手が鳴り止まない中逃げるように壇上をあとにした。
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