新入生代表・近衛信介

2/2

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
拍手は鳴り止まない。暫くすると、掛け声がまた聞こえ出した。 「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」 本格的に頭がおかしくなるのを感じた。 この人達は、楽しんでいる。 僕が追い詰められているのを楽しんでいる。 先生達もこの光景を見ているのに、止めに入らない。僕はもはや完全にこの空間の、そして自分1000人の上級生の餌食だ。 アンコールの声は止む気配がない。 僕は無言の圧力に押されて壇上にのぼった。 壇上に吹き荒れる拍手の暴風雨。壇上からは1000人の、否、1000体の鬼の姿を見渡すことができた。 僕は整理し直した原稿を再び開き、マイクに向かった。 「本日はこのような会を開いて僕たちの入学を祝ってくださり……」 「聞こえねーぞ」 「さっきと全く同じじゃねーか!」 「だからマイク取れ!」 響き渡る野次が僕の耳を貫いていく。そして、僕の中で何かが壊れた。 僕はマイクスタンドを口元から外す。すると、再び大歓声が起こった。 「もし僕たちがまだ入学生として認めてもらえない存在だとしても、いつか必ず認めさせてみせます。よろしくお願いします!」 僕はそう大声で叫び一礼をすると、足早にステージをあとにした。拍手は鳴り止まない。 「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール……」 アンコールの声が響き渡る中、司会のマイク越しの声が響く。 「以上を持ちまして、対面式を終わります」 僕はやっとこのアウェー空間から解放された。 ほっとすると同時に、僕は腹の底から思った。 こんな奴ら、いつか見返してやりたい。 こんな奴らに負けるわけにはいかない。 今日1979年4月9日は、僕にとって本当に特別な、屈辱的な日となった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加