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「近衛先生、お願いします」
秘書から促され、私は立ち上がった。
あの日から40年。私は東大に進学し、官僚を経て32歳で衆議院議員に初当選。以来9回の当選を重ね、今私は政権与党である自滅党党首の座にある。1週間後には衆議院議員選挙を控えているが、現在自滅党は劣勢が囁かれている。
私は選挙カーの上に立つ。すると、多くの人達が私に対して拍手を送ってくれた。
「今日はお集まりいただきありがとうございます!」
そう私がマイク越しに言うと、拍手が送られた。
そのとき、
「引っ込め近衛ーーー!」
「近衛は辞めろー!」
「近衛の悪政、反対!」
声はさらに強くなる。
「災難は国政から消えろ!」
「政界の厄介者、近衛ー!」
口汚い野次が乱れ飛ぶ最中、私の中で何かが壊れた。蘇るあの屈辱。私の記憶が腹筋から声を押し出した。
「私は、こんな奴らに負けるわけにはいかないんです!」
そう絞り出した私はやっと、40年前のわだかまりを手放せた気がした。
「千萬人と雖へども吾往かん」と孟子は言った。
こんな奴らにやられてなるものか。
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