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――普通だったよね、わたし。
今まででいちばん、話ができた。
いろいろなことがあった一日だったけど、今ので帳消しだよ。
「ちはるー」
遠くから、でっかい声でわたしを呼んだ。
「なにー?」
遠くへと、でっかい声を悠太くんに返した。
「おれは千晴に恨みがあるぞー。よくも赤いTシャツを着てくれたなー!」
フラッシュバックしたのは、トマトについて『色とか。全部』と答えたときの顔。
「それがどうしたのー?」
「おまえのせいで、おれはおれの赤いTシャツを着れねーじゃんかよ。ペアルックが怖くて着れねーじゃんかよ!」
笑った。
むこうも笑った。
なあんだ、そういうことだったんだ。
「許すー」
「なにをー?」
「ペアルックをー。もし冷やかされたら、しかとしようねー」
「なんだそりゃ」
雨露をはじいて、鮮やかにサルビアが咲いている。
その色を見るたび、わたしはいつも思いだす。
最初の恋を。
とりあえず、今度の傘も赤にしよう。
END.
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