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「おはよう、小見さん。君は元気有り余ってそうで何より」
絶対そうだ。
圭の行動への疑問とわずかな苛立ちを携えながら編集室のドアを開けた途端、怒りの針を振り切らせるこの笑顔。
わざとらしく頬杖ついて人を観察してんじゃねーよ。
『はいっとっても元気ですぅ、おもむろに何か振り回したいくらい!あっ、ここに良い金属バットが』
・・・いやダメだ、ここは湯下さんの私物が置いてある路地裏編集室じゃなかった。
とりあえず「光栄です」とだけ返しさっさと自分の席に向かいながら、ふと違和感に気づく。
こういうやりとりのあと、いつも困った笑顔で迎えてくれるはずのあの人がいない。
まだ閉じられたままのパソコンに首を傾げたその時、彼の代わりに眉を下げた今次さんが飛び込んできた。
「あー小雪ちゃんおはよ!やべーよ、梶さんダウン。今朝急に熱出たって」
「えっ」
ありゃりゃ、ここにも巷の流行の被害者が。
梶浦さんとはつい昨日あんなことがあったばかりなのに・・・
って普通に思い返せる私もどうよ。
前々回の経験から、記憶が残ってる可能性は低いとみて普通に出勤してしまったこの順応力・・・泣きたい。
「全裸でベランダにでもいたのかなー」
いや、昨日はむしろ放り出す側だったけど。
なんてことは口が裂けても言えないので、曖昧に言葉を濁す。
いつどこで風邪のウイルスをもらったんだろ?
非常に元気でやる気満々だったのに、まさかその反動で知恵熱みたいのが出ちゃったとか?
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