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「あの、さ、今度、夏祭りあるじゃん、花火大会」
枝野由香の声だ。
一瞬誰だか分らなかった。
女子トイレで話す時とは、全然違う声だ。
「そうなんだ、知らなかった」
「うん、花火大会があるのね、で、アタシ、清くんと行きたいんだ」
おお、勇気を出したね。
応援する気持ちと、嫌な気持ちが胸を渦巻く。
「それ、何時?」
あ、やっぱり嫌だ。やめて。
「今度の土曜日。夜の七時から」
やめて、やめて、やめて。
「その日、用事が有るんだ」
「そ、そっか、残念」
由香は悲しそうにする。
「でも、用事が有るなら仕方ないか」
由香はわざと明るく振る舞う。気丈な子だ。
私は複雑な気持ちで、その場を離れた。
物音を立てずに。
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