1

23/44
前へ
/44ページ
次へ
「あの、さ、今度、夏祭りあるじゃん、花火大会」 枝野由香の声だ。 一瞬誰だか分らなかった。 女子トイレで話す時とは、全然違う声だ。 「そうなんだ、知らなかった」 「うん、花火大会があるのね、で、アタシ、清くんと行きたいんだ」 おお、勇気を出したね。 応援する気持ちと、嫌な気持ちが胸を渦巻く。 「それ、何時?」 あ、やっぱり嫌だ。やめて。 「今度の土曜日。夜の七時から」 やめて、やめて、やめて。 「その日、用事が有るんだ」 「そ、そっか、残念」 由香は悲しそうにする。 「でも、用事が有るなら仕方ないか」 由香はわざと明るく振る舞う。気丈な子だ。 私は複雑な気持ちで、その場を離れた。 物音を立てずに。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加