03.夏の夜の夢を

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それは一瞬。文字に従い瞬きをしていたら気付かなかったろう世界。 その一瞬だけ、世界は境界を曖昧にした。 その一瞬だけ、俺たちは確かに見た。 和服を着た2足歩行の狐達と、 彼らに連れられ輿に乗る、狐のお面を付けた花嫁。 その光景は、ふっと現れ、ふっと消えた。霞のように。 呆然とその光景を見終えてから―― 「……そうか、鬼火だ」 唐突に思い至る。 夜に墓地や湿地で燃える青色の火を鬼火と呼ぶ。 鬼火の別名は狐火。 そして狐火がずらっと並んでいるその光景を―― 「……狐の、嫁入り……」 ――思えば、今日の昼は日が強く照っていたにも関わらず 雨が降っていたではないか。 狐雨――もう1つの狐の嫁入り。 「昼はリハーサルで、こっちが本番、とかかね……?」 惚けたまま笑う俺の袖をつかんでぶんぶん振るイトコ。 「ねえねえ!見えたよね!今見えたよね!?」 「うん。見えた」 「わー凄い!なんだろ!なんだろ今の?」 今にでもバスを降りて確かめに行きそうな感じだな、コイツ。 させないが。最終バスだし。これ。 「帰ったらみんなに教えてあげよー」 満面の笑みを浮かべるイトコ。しかし。 「いや、みんなには黙っておこう」 その言葉に予想通り「えー」と不満そうな顔を見せるイトコ。 「さっきのは、二人だけの秘密」     
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