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それは一瞬。文字に従い瞬きをしていたら気付かなかったろう世界。
その一瞬だけ、世界は境界を曖昧にした。
その一瞬だけ、俺たちは確かに見た。
和服を着た2足歩行の狐達と、
彼らに連れられ輿に乗る、狐のお面を付けた花嫁。
その光景は、ふっと現れ、ふっと消えた。霞のように。
呆然とその光景を見終えてから――
「……そうか、鬼火だ」
唐突に思い至る。
夜に墓地や湿地で燃える青色の火を鬼火と呼ぶ。
鬼火の別名は狐火。
そして狐火がずらっと並んでいるその光景を――
「……狐の、嫁入り……」
――思えば、今日の昼は日が強く照っていたにも関わらず
雨が降っていたではないか。
狐雨――もう1つの狐の嫁入り。
「昼はリハーサルで、こっちが本番、とかかね……?」
惚けたまま笑う俺の袖をつかんでぶんぶん振るイトコ。
「ねえねえ!見えたよね!今見えたよね!?」
「うん。見えた」
「わー凄い!なんだろ!なんだろ今の?」
今にでもバスを降りて確かめに行きそうな感じだな、コイツ。
させないが。最終バスだし。これ。
「帰ったらみんなに教えてあげよー」
満面の笑みを浮かべるイトコ。しかし。
「いや、みんなには黙っておこう」
その言葉に予想通り「えー」と不満そうな顔を見せるイトコ。
「さっきのは、二人だけの秘密」
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