第1章

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 腐った肉片が、顔に所々にへばりついている。土のような色に変色した骨も、あちこち現れている。眼窩≪がんか≫からは、血走った両眼玉が飛び出し、既に腐っており、しかも、ヒビ割れて口まで垂れ下がっている。そのいまわしい両眼玉が、恨めしそうに勉を睨んでいる。鼻には、肉はなく二つの空洞があるだけだ。何か淡い肌色をしたコメ粒程の大きさをした虫が、盛んに出入りしている。何と、それらは、おびただしい数のウジ虫どもだ。両耳は本来の位置に辛うじてあるが、紫に変色していて所々欠けている。唇には、パープルの口紅をしているようだ。いや、違う。口も腐ってただれているから、そう見えただけだ。更に、唇からは、四つに別れた真っ赤な舌が、絶えずチロチロと素早く出入りしている。まるで蛇の舌のような動きだ。喉からは、不気味な声さえ聞こえる。  体中の産毛≪うぶげ≫が立って、再び悪寒が勉を襲った。  そして、黄色に変色した骨だけの両手で、頭を鷲掴≪わしづかみ≫にされ、吸血鬼のように尖った歯で、頭を何度も何度も齧≪かじ≫られた。彼女の口から、どす黒い血が溢れ出して、ポタリ、ポタリ、ポタリ、ポタリ……と音さえ立ている。 「痛い!痛い! もうこれ以上、お、お、俺を苦しめないでくれ! だ、誰か、誰か、誰か助けてー!」  ガリ、ガリ、ガリ、ガリ……と、齧られている硬質な音が、この世に響き渡った。  つまり、勉は彼女によって黄泉の国に連れていかれたのだ。                  ―完―
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