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気になるのは足元に置かれたトランクだ。その大きさは華奢な少女の体つきにはどう見ても不釣り合いに思える。
初めは旅行者かとも思ったのだが、それにしては二時間以上も一人でカフェにいるというのは妙だ。このくらいの歳の少女――それも良家の子女ともなれば、付き人くらいいて然るべきではないか。
「実は、私が今朝この店に来てからかれこれ二時間が経過しているのだがね。君はその前から一人でこの店にいる。そうだろう?」
「ええ、そうよ。人を待っているの」
少女はやはりはきはきと、才気走った喋り方をした。
それが何となくお高くとまっているような、小生意気そうな印象を与えたが、私は努めて冷静であるよう自分に言い聞かせながら、「なるほど」と軽く咳払いをする。
「それは奇遇だ。実を言うと、私もここで人を待っていてね。だが一つ問題が発生している」
「というと?」
「私は彼と、君が座っているその席で待ち合わせる決まりになっているのだ。だからもし差し支えなければ、その席を私に譲ってもらいたいのだが」
「まあ」
と、それを聞いて少女は目を丸くした。
私は何も、そこまで驚かれるようなことを言ったつもりはないのだが――と、その反応にこちらの方がかえって驚く。いや、あるいは今のやりとりの中に何か失言があったのか?
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