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1.
私は困っていた。
既に隅々まで読み終えてしまった新聞をテーブルに置き、ため息と共に懐へ手を入れる。冠を戴いた盾と月桂樹が刻印された懐中時計を開くと、私がこのカフェに来てから既に二時間が経過していることを二本の針が教えてくれた。
どんなに目を皿のようにして探しても、これ以上目の前の新聞から未読の記事を探し出すことは難しい。何せ私は今朝から三回もこの新聞を読んでいるのだ。普段なら間違いなく読み飛ばしているであろう取るに足らない記事にまで、一言一句目を通した。しかし事態は動かない。
私は沸々と込み上げてくる苛立ちを静めるため、本日四杯目になるアッサムティーへ手を伸ばした。
が、なかなか品のいい金縁のカップを持ち上げたところでその軽さに気づく。つと目を落とせば中身は空だ。自分でも気づかないうちにすっかり飲み干していたらしい。
そこはロンドンの片隅にある小さなカフェ。私は毎朝このカフェに顔を出し、新聞を片手にモーニングティーを飲むのが日課だった。
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