第1章

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 そう――勉は、 常人ではないのだ。 恐らく、 外見上では誰も区別なぞ出来ないだろうが。  今度は、 積もり積もったストレスを、 窓と反対側に大声で吐き捨てる。 そこは緑のモルタルの壁だ。  その時だった。 このアパートに四年ほどしか住んでいないのに……モルタルにヒビが入っている箇所を見つけ、 彼は、 ほんの一瞬だけ思った。 「アホタレ大家に、 文句を言ってやろう!」  それ程に、 勉は、 細かな事に気がつく神経質タイプだ。 しかし、 その時、 筋骨隆々のたくましい、 まだ三十歳代の大家の姿が脳裏に浮かんだ。 腕力で戦っても、 勝ち目がないのを自覚していた彼は、 自分の意気地なさを、 心の中でうまく正当化したのだ。
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