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「警察に追われるようなことするのが悪いんでしょ!? アンタの自業自得に私を巻き込まないでよ!」
たぶん〝恐怖〟という感情にメーターがあるのなら、そのときの私はそれが完全に振り切れて、何かが爆発していたのだと思う。加えて元々短気な性格なのが災いし、私は一度キレると男に暴言を吐きまくった。それはもう、とても人には聞かせられないような暴言を。
けれども男も負けじとそれに怒鳴り返してくるせいで、車内はすさまじい罵詈雑言の応酬になった。あのとき、もしかしたら私たちは世界中に存在するすべてのスラングを使いきっていたかもしれない。
そんな怒鳴り合いをしながら20分。とうとう車は路肩に乗り出して停止した。
男はエンジンを切らずにこちらを向くと、上げたシールドの向こうから蒼い目で睨み据えてくる。というか〝苦虫を噛み潰したような顔〟ってこういうときのためにある言葉なんだろうなと思わず納得してしまうような、そんな顔だ。
「あのさ。お前、可愛いげのない女だってよく言われねえ?」
「あら、よく分かったわね。先月別れた彼氏にもしょっちゅう言われたわ」
「ソイツの連絡先教えろよ。〝お前はよくやった〟って慰めてやりてえ」
「それなら間に合ってると思うわよ。何せ彼、他に女を作っていなくなったから」
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