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 ただ昨日の面接の結果にムシャクシャして、更に今日、ご丁寧に採用お断りのメールまで届いて、それが大層頭に来たものだからヤケ酒に走っただけだ。行きつけのバーでバーテンのマイクに散々愚痴を聞いてもらいながら深酒し、べろんべろんに酔っ払い、タクシーを呼ぶと慌てていたマイクに大丈夫だからと見栄を張って徒歩での帰路に就いた。そして気づいたら知らない路地にいた。まるで人気のない、細くて暗い路地に。  そう。要するに私は迷子になったわけだ。しかも毎年我が国で〝最も治安の悪い都市ランキングTOP10〟に数えられる、このカリフォルニア州オークランドで。  自分が一体どういう経緯でこの路地へ迷い込んだのか、その間の記憶はない。ただ気づいたら薄汚いゴミや壁の落書き、無機質な配管ばかりが目につく道の真ん中にいて、背後から駆けてくる足音を聞いた。あ、人だ、道を聞けるかも――そう思い振り向いた次の瞬間には、私は見知らぬ男に肩を掴まれ、その腕の中にすっぽりと収まっていた。  それが愛の籠もった熱烈な抱擁だったなら、たとえ見知らぬ相手であったとしても今の私なら多少慰められたかもしれない。けれど、そう、これがそんなラブロマンスの始まりであるはずもなく。  私はどうやら、人質にされたらしい。 「あー、クソッ、さっきからゴチャゴチャうるせえな! いいからさっさと失せろっつってんだ! さもないとこの女殺すぞ!」  少しザラついた感触の、頭の悪そうな声が頭上から降ってくる。声からして男はまだ若い。ただその声がやけにくぐもって聞こえるのは、男が黒いフルフェイスメットを被っているせいだ。     
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