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だから男の顔は見えない。同じく黒い革製のライダースジャケットを着ているところを見ると、先程までバイクにでも乗っていたのだろうか? それが交通違反か何かやらかして逃げてきたとか?
だけどもしそうなら、いくらここが事件の絶えない西部の辺境地だとしても、通りすがりの酔っ払いを捕まえて銃を突きつけるというのはやりすぎだと思う。それにこの男――まだ1発も撃っていないのに、何故だか硝煙の匂いがする。
「おい、落ち着け。落ち着いてまずはその銃を下ろせ。そうしたら我々も銃を下ろす。お前の話を聞くのはそれからだ」
「だーかーらー、なんでオレが先に銃を下げなきゃなんねえんだよ? だったらてめえらが先にその銃を下ろしやがれ!」
「人質の安全が最優先だ。お前が人質に危害を加える可能性がある以上、それはできない!」
「あっそう。――じゃ、こうするわ」
「え?」と、私が疑問符を浮かべる暇もなかった。男は私の首もとに回していた腕を解くと、代わりに突然左手を掴み、全力で後ろへ駆け出した。
いきなり腕を引かれた私はよろけ、転びそうになりながらも何とか体勢を立て直す。男の力は抗い難かった。酔っ払って足元がおぼつかない私をぐいぐい引っ張り、路地の奥へと駆けていく。
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