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 背後からは警官らしき2人の怒声が聞こえた。ところが2人が追ってこようとすると、男はすかさず銃を天に掲げて1発――撃った。 「ついてくんな! 追ってきたらこのアマ殺すぞ!」  そのバイオレンス極まりない脅し文句は、果たして一定の効果を発揮した。私が撃たれることを恐れた2人が脅迫に屈したのだ。  駆けながら器用にヘルメットのシールドを上げた男は、それを確認して満足そうに「ヘヘッ」と笑った。そこから覗いた目元はやっぱり若い。私と同じくらいか、あるいはいくつか年下か――。 「あ、あの、どこに行くの……!?」 「うるせえ、人質は黙ってついてくりゃいいんだよ!」  まったく事態についていけない頭からどうにか捻り出した質問は、横暴に一蹴された。私はそのことに腹を立てても許される立場にあったはずなのに、アルコールの回った頭はそれ以上働くことを放棄して、「とりあえずその男についていけ」と命じるとあとは不貞寝を決めてしまう。  おかげで思考も感情も真っ白になった私は、ただただ男に腕を引かれるまま駆けた。ここで足がもつれて転ぼうものならその場で殺されるような気がして、とにかく必死に、そして愚直に男の背中を追いかけた。     
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