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やがて男が飛び出したのは、路地の先に横たわっていた大きな道路だ。そこで一度足を止めるかと思いきや、男は迷わず車道へと走り出た――車が来る!
「おい、止まれ!」
ヘッドライトを皓々と光らせながら迫り来る鉄の塊に私が身を竦ませた刹那、再びドンッと銃声がした。見れば白い乗用車の前に立ち塞がったヘルメット男が、またも銃口を暗い空へ向けている。
ドライバーもその銃声と、大胆すぎる男の行動と、その奇妙な出で立ちに驚いたのだろう。車は甲高い悲鳴を上げて急制動し、私たちに激突する寸前でピタリと止まる。
「よし。おいホモ野郎、さっさと車を降りろ。降りろよ! さもないと殺すぞ、オラ!」
それから男は銃をチラつかせて怯えた初老の男性――ゲイには見えない――を引きずり下ろすと、そのまま運転席に私を押し込んだ。そこでようやく私の思考は息を吹き返し、「まさか運転しろってこと!?」と喫驚する。
けれどもそれは杞憂だった。というか事態はもっと最悪だった。
男は声を荒らげて私を助手席まで追いやると、自分が運転席へ乗り込み、車を発進させたのだ。
「冗談でしょ……!?」
私はそう叫びたかった。しかしそれができなかったのは男の運転があまりにも荒々しく、発進と共に大きく揺さぶられたから。
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