プロローグ

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自分で評するのもどうかと思うが、あたしはそれなりの地位に立っていた。 自営業で忙しい両親に代わって、家事をするのは一人っ子であるあたしの役目。 料理に対する感情が『面倒』から『興味』になり、もっと突き詰めたい好奇心から、家政科の高校を経てやがて食品会社に入社した。 好きなことを仕事にするということ。この威力は半端ない。 残業も徹夜も厭わず、ただやりがいだけを糧にどんな仕事にも挑んでいた結果、気づけばチーフという肩書をもらい受けていた。 22歳、女性、高卒。 創立19年のうちの会社では、最年少の出世だったらしい。 結構な話題を呼んで下さり、男性社員の半分はあたしに対する態度をガラッと変えた。 昨日まで私を顎で使っていた上司が、手のひら返してわざとらしくニコニコ。 呼び出される数分前に笑顔で差し入れのコーヒーをくれたはずの先輩は、その後あたしを完全シカト。 でも構わない。 くだらない嫉妬や敵対心なんて、何の栄養素にもならないから。 仕事を与えられる立場から、指示する方へと変わる。さらに自分の責任も重くなる。 重圧はあれど、自分のチームが提案した商品が店頭に並んだあの喜びは何にも変えられない。 それを思えばどんな陰口もパワハラも簡単に乗り越えられる、充実した日々。 そしてまた新たな達成感を得られるはずだった、24歳の初夏。 あたしの人生に、どうあがいても調理できない食材がぶち込まれた。
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