プロローグ

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製造を任せていた工場が、輸入品を検査もろくに行わないまま、まさかの国内生産と偽った状態での出荷。 慌てて視察に行けば、食品衛生管理者の不在。 もちろん、発売を3日後に控えていた新商品たちは全て自主回収。 不正をした諸悪の根源は製造会社だが、管理を怠ったうちも責任重大である。 即日、取引を進めていた上司と先輩、そして開発を指揮したあたしが呼び出された。 消費者の手に渡る前に発覚したことは不幸中の幸いだったといえど、これはわが社の存続危機に関わる大きな事故だ。 取引先の信用も失い、面目丸つぶれ。 最悪、誰かが・・・ 隣で死神を背負って項垂れている上司が、責任を取ってこの地位から去るという当たり前の構図が頭に浮かぶ。 しかし、あたしたちはチームを組んでいる仲間なのだ。 この立場にいる以上、2人に罪を押し付けて自分だけ素知らぬふりをするわけにいかない。 何を聞いても 『問題なく進んでるから大丈夫』 『こっちにまで口出ししてくんな』 という返答を鵜呑みにしていたあたしにも、責任はある。 もう一度チャンスをもらおう。 この3人で、取引先や迷惑をかけた人たち、不安な目に合わせた後輩に報いるチャンスを。 今度こそ信頼できる商品を届ける、それこそが最良の責任の取り方じゃないか―― そう心に決め、2人と順番に目を合わせて『大丈夫』と頷く。 同じく薄い微笑みを返されたことで、気持ちは一つだと奮い立ち、もはや戦場に行く気持ちで社長室の扉をくぐった。
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