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瑠璃色の小宇宙に、光が差し込んだ。
空知兎月は、空を仰いでいた。心地よい風が吹く五月の午後。校舎、屋上。ここは兎月にとって、他の誰も立ち入ることの出来ない、自分だけの秘密の場所だった。
屋上は立ち入り禁止になっていて、観音開きの扉の真ん中には、侵入者を拒む、大きな南京錠が掛けてある。その鍵穴に針金を差し込むだけで、簡単に錠が開くと気付いてから、一か月が過ぎていた。
制服が汚れるのも構わず、兎月は、仰向けに倒れ、思い切り手足を伸ばした。強張っていた体がほぐれ、少しずつ緊張が解けていくのがわかる。この瞬間だけが、兎月にとって、学校生活で唯一、リラックス出来る時間だった。
ブレザーの胸ポケットから、瑠璃色のガラス玉を取り出した。先程、屋上の扉を開いた瞬間に、足元に転がって来たものだった。濃い紫みのある青い綺麗なガラス玉。ビー玉よりは大きく、スーパーボール位はある。光るものを集める習性を持つ、カラスが落としていったものかもしれない。兎月は寝転がりながら、ガラス玉を掲げ、その丸みを指先で確かめながら、右目に近づけ、その瑠璃色の球を通して、空を覗き込んだ。
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