10人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当にいいの? 前髪で外の世界を遮断していたんじゃないの?」
美容師のお兄さんが、兎月の長い前髪に鋏を入れる。毛の束が床に落ちるのをソファで眺めながら、聖は訊ねた。
「外の世界が見たくなったから、いいんだ」
兎月は答えた。それにしても、自分が髪を切られているのを、後ろから客観的に眺めているなんて、不思議な光景だ。鏡に映った自分の顔を見ながら、兎月はくすぐったい気分になった。新しい髪型の自分を、聖は、竜也は、どう思ってくれるだろうか?
「ううっ、あぁ、またこの感じ……嫌な感じ……」
聖の呟きに、兎月が隣に座る聖を振り向くと、彼女は頭を押えて苦しそうな表情をしていた。
「葛西さん、どうしたの? 大丈夫___」
聖に訊ねるや否や、兎月にも唐突に、ソレは襲い掛かって来た。キーンと耳鳴りがし、脳の内側が急激に膨らんでいるような、ズキズキとした痛みが襲って来る。頭を押えて懸命に堪えた。声にならない声で苦しんでいると、痛みは徐々に消えて行く。
深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。目を開くと、兎月の目の前には竜也がいた。
「あぁ、せっかく自分に戻ったと思ったのに。またか……」
最初のコメントを投稿しよう!