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近くの駅で人身事故が起こったらしく、通勤中のサラリーマンがバスに流れ込んで来ているようだった。
ぎゅうぎゅう詰めの車内は息苦しく、竜也は運転席の後ろのつり革に、辛うじて捕まった。隣に立つ中年のサラリーマンの動きが妙だと感じたのは、バスがバス停を発車してすぐだった。挙動不審に辺りを伺っている。腹でも痛くなったのかと、竜也は何気なくそのサラリーマンを見ていたが、やがて、その男の手が、隣にいる女子高校生のスカートに伸びたのを目撃してしまった。
うわ、痴漢だ。竜也は驚いて、自分の周辺を見渡した。誰も気付いている様子はない。もしかすると、気付いていても、気付かないフリをしているのかもしれなかった。
サラリーマンの手が女の子のスカートの中をまさぐる。女の子は俯き、必死に耐えているようだった。肩が震えていた。泣き出してしまっているのかもしれない。怖くて声を出せずに、我慢している様子が、先日の兎月と重なり、竜也は、これは自分が助けなければと、腕を伸ばした。
「何してるんだよ、変態」
男の腕を掴むと、彼は驚き、押さえつけられた腕を、振り解こうとした。サラリーマンがいきなり暴れ出したので、ぎゅうぎゅう詰めの車内のそこだけに、空間が出来た。
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