4・合コン×探偵×ストーカー

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「どうかしましたか?」  乗客の騒ぎを聞きつけたバスの運転手が、路肩に一時停止し、マイク越しに声を掛ける。 「……助けて下さい、この人、痴漢です!」  被害者の女の子が、震える声で叫んだ。 「あの、ありがとうございました。あの時、あなたが助けてくれなかったら、私、何も言えずに悔しい思いをしていたと思います」 「いや、俺は何もしてないよ」  結局、少女の声に反応し、次のバス停で、犯人を車内から降ろさせ、警察を呼んでくれたのも、竜也ではなく、バスの運転手や、周りにいた大人たちだった。  被害者の少女は、竜也と同じ学校だったので、校門前で下車すると、声を掛けられたのだった。小柄でかわいらしい女の子だった。胸の辺りまである巻き毛がふわりと揺れ、甘い香りがする。初めて見る子だった。学年が違うのかもしれない。 「お名前、訊いてもいいですか? 改めてお礼させて下さい」 「俺の名前? えっと、鷲尾……じゃねぇや、今は。いいよ、気にしないで」  丁度、ズボンのポケットに入れたスマホが鳴り、竜也は彼女に手を振り、そそくさと、その場を離れた。あー、危なかった。うっかり自分の名前を言う所だった。「今の俺は空知兎月」と、竜也は心の中で繰り返す。下駄箱でスマホを確認して、「あ」と、思わず声を上げた。
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