仰げば尊し

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「あぁ、あ! もう、もうダメッ! マモルぅッ! あぁあッ!」  衛の額から汗が落ち白い腹に落ちた瞬間、陽はついに精を飛ばした。飛沫が衛の腹をも濡らし、それが引き金となって彼もまた、体内の種をたっぷり陽に注ぎ込んだ。 「はぁ、はぁ、あぁ。あ、はぁ……ッ」  息を切らせる細い体を、衛はしっかり抱きしめた。髪を優しく梳きながら、その息が整うまで甘く囁き続けた。 「学校でしっかり勉強して一人前になったら、またここに来い。ずっと、待っててやるから」 「ホント?」 「ああ」 「他の子に浮気なんかしたら、承知しないんだから」 「まず、それは無いな」  その言葉に、陽は衛に肌を擦り付けた。  マーキングしてやる。  誰もマモルに手出しができないように、僕の残り香が消えないように、浸み込ませてやる。 「マモルは、ずうっと僕だけのものなんだからね」 「お前こそ、心変わりなどするんじゃないぞ」  二人で囁き合いながら、甘いひとときを味わった。  二人で創った温室で、その愛を確かめ合った。   「こんにちは」 「……あらッ! もしかして、ヒナタちゃん!?」 「お久しぶりです、左近先生」  きゃっきゃと僕の手を取りはしゃぐ左近先生のお化粧は、少し濃くなったようだ。さすがに年齢を気にし始めたのかな。  あれから時が過ぎた。  言いつけを守り、陽は専門学校を卒業するまで衛に会いに行かなかった。淋しかったし、慰めたり励ましたりして欲しい時だってあった。  だが、そこはぐっと我慢した。自分でも、自信が無かったのだ。ここで衛に会ってしまうと、甘えてしまうと、何もかも放り出して彼の側から離れられなくなりそうだったのだ。  きょろきょろと職員室を見廻す陽に、左近はすまなさそうな顔をした。 「マモル先生、探してるんでしょ? ごめんね。彼、転勤になったの」  その後、左近は何か言葉を付け足していたが、陽の耳にはもう入らなかった。  転勤。  マモルが、いない。  マモルはもう、この学校にはいない。  眼の前が真っ暗になり、太陽が緑色に見えた。 「ここは変わらないな」  陽は日光にきらきらと光る、大型ガラス温室を見上げた。懐かしい温室。僕とマモルとで創り上げた、植物たちのパラダイス。  そしてそれは、陽の楽園でもあったのだ。温室と、衛と離れてから、改めて思い知らされた。ここでの3年間がなければ、今の自分はなかった、と。
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