仰げば尊し

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扉を開け、中へ入った。温かな空気はやはり水と緑の香りで溢れており、陽は深く息を吸った。  ひとつひとつ、確かめながら奥へと進む。どの植物たちも元気で、お帰り、と話しかけてくるかのようだ。  そして、一番奥。  そこには、やはりソファがあった。  あの時のまま、革のソファが。 「あれ?」  だがそれは、やたら新しかった。まだ捻くれた1年生の時に、粗大ゴミ置き場から引きずってきた、あの古びたソファではない。  恐る恐る、座ってみる。肌触りがよく、体によく馴染んでくる。これは、とてもいいものだ。 「気に入ったか?」  突然声がかけられ、陽は飛び上がった。  だけど、この声は。この聞きなれた、懐かしい響きは。  アレカヤシの影から、この数年間ずっと恋焦がれていた男が現れた。 「マモル!」 「久しぶりだな、ヒナタ」  随分大人びたものだ。あの頃は、まるでやんちゃな少年だったのに。  しかし、その美しさは変わらない。煌めく瞳の輝きも、あの頃のままだ。 「会いたかったぞ」 「マモル……」  ソファから立ち上がり、駆け寄ってくる陽。彼を全身で受け止めようと、衛は大きく両腕を広げた。  バッチィイイイインンンンン!  胸 に飛び込んでくる代わりに両手挟みビンタをかまされ、衛の耳はキンキンと鳴り響いた。 「ひどい! マモルの馬鹿! せっかく会いに来たのに、転勤だなんて!」 「異動は俺のせいじゃない!」  それに、ちゃんとこうして待ってたじゃないか、と諭され、陽は爪先で小石を蹴った。 「それはそうだけど」  でもこれで、またマモルと会いにくくなる。  どこに転勤したんだろう。  遠くの学校に行ってしまうのなら、最悪もう二度と会えなくなるかもしれない。  そんな陽の心の内を見透かしたかのように、衛は転勤先の話を振ってきた。 「中央の、結構賑やかな土地柄の高校なんだ。繁華街やオフィス街もあるし、周辺にはベッドタウンもある。だから、その、な。就職するには、もってこいの場所だと思うんだが……」 「え?」
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