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だが、それもあとわずか。
衛との出会いから、3年。3年生になった陽は、もう卒業しなければならないのだ。衛と会えなくなってしまうのだ。
それが嫌で、捻たふりをしては、わざと欠席を続けたり、拗ねたふりをしては、わざと単位を落としたりした。
それでも、あとギリギリのところで衛が現れるのだ。
喚き散らす陽を小脇に抱えて、教室まで無理やり運び込んだり、他の教師が授業をする中、隣の席で見張っていたり。
そんなこんなで、ようやく卒業までこじつけた陽。他の教師たちは、秋月先生に感謝すべきだと諭したが、今日も彼は不機嫌だった。
「マモルは、僕なんか早く卒業すればいいと思ってるんだ。早く出ていけ、って考えてるんだ」
「どこをどう突っつけば、そういう発想が出てくるんだ?」
進学もしない、就職もしないとごねて衛を困らせた、わがまま気ままな猫。
しかし3年前から温室をせっせと再建する彼の横にいては、伸びをしたり縮んだり、減らず口を叩いたりとそれなりに付いてきていた陽は、気がつくと植物にやたら詳しくなっていた。
2年生の夏を迎える頃に、ふと陽の方から衛に話しかけてきたのだ。いつもなら、校内の廊下で出会っても知らんぷりを決め込む彼には珍しい事だ、と衛は軽く驚いた。
「ね、マモル。そろそろランには遮光をしてあげなきゃいけないんじゃないかな?」
「ん? あぁ、そうだな。ダイオネットにするか、ラスにするか……」
「ネットがいい。ラスは重くて、僕には動かせないもん」
おや、と衛は気付いた。陽のやつ、手伝ってくれるつもりなのか? しかも、こんな専門知識まで仕入れて。
そんな彼の顔つきに気付いたのか、陽は真っ赤になってまくしたてた。
「べっ、別に、手伝おうとか思ってるんじゃないからね!? おバカで間抜けなマモルは、忘れそうだって思ってるだけだからね!?」
「はいはい」
「返事は1回!」
「はい」
そんな言葉を交わしながら、二人はいつの間にやら温室の散水や温度管理を一緒にするようになっていた。
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