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赤
12/31 AM8:30
この日、世界の中でも俺ほど特別な日を過ごすヤツはいないだろう。
終焉の日。最も美しく、甘美で、儚い一日。誰にも、邪魔はさせない。
12/31 AM9:00
まずはベランダに出る。雲一つない青空が広がっている。
窓を閉めてもたれ掛かりタバコに火を着ける。同じモノとは思えない美味しさである。今日くらい吸殻はそのままベランダに捨ててもいいだろう。何せ明日から俺はいない。管理人には少し申し訳ない。
ああ、少し雲が出てきた。空をこんなに見上げることなんてないが、煙がのぼっていききっと雲と同化していく。俺の一部がこうして世界への一部へと変わっていく。なんて美しいんだ。
12/31 PM12:00
最後の昼食はやはり袋麺にする。生まれて35年が経とうとしているが一番飽きない味だ。それにいつ食べても美味い。インスタント麺は身体に良くないというが、では作らなければよかったのだ。存在がある限り人は手を出そうとする。そこに身体の状態など関係がない。より身体に悪いと言われるものに手を出すのは本能なんだよ。明日も100年先も人は本能に従って生きていく。俺が今日死ぬことも本能に従った結果だ。
12/31 PM15:00
この日のために150g買ったキリマンジャロのコーヒーを入れる。やはりインスタントのコーヒーよりも深みと旨味があり、雑味がない。美味しい淹れ方を調べた甲斐もあった。ついでに甘いものも買っておけばよかった。
コーヒーは80~90℃で淹れると美味しくなるらしい。おそらく8割くらいは沸騰したてのお湯でコーヒーを淹れているんじゃないだろうか。
一度何かを行うと全てであり、正解だと思い込んでいる。完全体でなくても完全と錯覚しているのだ。
俺は今不完全体だ。そして今夜完全体になる。錯覚したままで一生を終わらすなどそんな馬鹿なことをしてたまるか。
日が沈んできた。決行の時間が迫っている。
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