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柔らかい陽射しが差し込み、小鳥が機嫌良くさえずる・・物語のフレーズに使われそうな穏やかな朝。
「真っ黒になっちゃった」
焦げたトーストの耳を眺めて眉を下げ、制服のスカートをキュッと握って振り返る。
細く透き通りそうな茶色の髪を揺らして苦笑。彼女の作る朝食は、半年に1回くらいこうして失敗する。
器用な彼女の可愛いヘマは逆に貴重で、俺はそれを一日の運勢占いのように受け止める。
「良いよ、食っちまえば一緒だろ。それ俺の分ね」
「えへへ・・ありがとう。蓮くん」
照れて染まった頬を見て、今日は物凄く良い一日になりそうだと実感。
「妹の失敗は兄がかばうもんだし」
普段女子と絡まない俺が、心からの笑顔を見せて唯一優しく出来る相手。
それはこの一つ下の妹・恵那だけ。
何食わぬ顔で返し、マジで炭に近いほど焦げまくってるトーストの端を齧る。
苦みを通り越して無機質な物質を飲みこむ俺の頭に、パスッと何かが乗せられた。
「兄ならぼーっとしてないで手伝ってよー」
視界を遮る物を手繰って、部活用のTシャツだと認識してるうちに「はあ」と呆れたため息が聞こえる。
振り返る前に、乗せた相手がスタスタと歩いていきフライパンの中で待っていたオムレツを皿に移した。
綺麗に黄色く形作られたそれを見て、今度はホッとした顔になる恵那。
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