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八月。ジリジリと暑さは増して、時折、アスファルトの上が、向こう側が、揺らめいて見えるのだから重症である。
蝉の声、風鈴の音、水を撒いた跡。木陰がどんなに落ち着くか。汗をかいた肌に、風が撫でていなくなる。けれど、その僅かな涼がとても優しいのだ。
両親が、三泊四日の旅行に出かけた。私はお母さんの代わりに、朝から野々堂の手伝いへとやって来ている。…と言っても、店番だ。
明日、明後日は、野々堂も夏休みをとるようで、私が訪れる理由は無く。そして、明日は初めて、朝から晩まで二十四時間、三條くんと二人きりで過ごすのだ。
正直、きちんと接客できているのだろうか?今から、これからのことを考えると緊張して、顔がかたくなっているのが分かる。
十九時にお店を閉める少し前、私は三條くんに連絡をした。
>予定通り、もう直ぐお店出るね。
「………。」
初めて一緒に…二人で一晩を共にするのに、やっぱり緊張しないわけがない。頬が熱くなって、眉が八の字になる。
「お?野々子。暑いか?」
「ううん。大丈夫だよ。」
「そうか?顔、赤いぞ。本当に夜、一人で平気か?爺ちゃん家来るか?」
「自炊してみたいから大丈夫。のんびりするよ。」
「何かあったら遠慮なく連絡寄こすんだぞ。」
「有り難う。」
「あと、これな。今日のお駄賃だ。」
「有り難う御座います!」
私は両手でそれを受け取ると、深々と頭を下げた。そしてシャッターを閉めて、お店を後にする。
「…ごめん。嘘吐いた。」
振り返り、閉まったお店に向かってポソッと呟いた。何だろう。このドキドキ。三條くんを想うドキドキとは違う…何か、いけないことをするみたい。
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