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「三條くん。」
家に着くと、其処には三條くんが待っていてくれていた。
「ごめんね、待たせた?」
「ちょうど今、来た。お疲れ。」
三條くんが私の頭に掌を乗せると、ワシャワシャと、まるで犬を撫でるように触るのだ。
「お夕飯、冷やし中華でいい?」
「ん。」
去年、みんなで軽井沢に行った時は、殆どりっちゃんが手際よくご飯を作ってくれた。私は三條くんに手作り弁当も作っていないし…一縷の不安があるのは隠しきれない。すると、
「手伝う。」
「あ、有り難う。…三條くん、料理できるの?」
「切るくらいならできる。」
「へへっ。」
「何?」
「何でもない。」
「当ててやろうか?」
「うん?」
「『なんか新婚みたい。』」
図星だった。赤面して、冷やし中華の袋を床に落とす。
「わざわざ言うなんて…意地悪だよ。」
「いいじゃん。俺も同じこと思ってた。」
やっぱり、三條くんには一生敵う気がしない。私のことをお見通しで、私のことを一々喜ばせてくれる。こんな人、多分もう一生、出逢えない。
初めて、二人並んでソファーに座り、テレビを観た。あれが観たい、これが観たい、チャンネル争いをして。それぞれがお風呂をすませて。三條くんは先に私のベッドの上で待っていた。
「野々子ん家の風呂、大きくていいね。」
「え?そうかな?」
「うん。」
「暑くない?麦茶と烏龍茶、どっちがいい?」
「さっき上がった時に麦茶貰った。」
「そっか…。」
そわそわする。やっぱり、初めてのことは何でも怖い。
「ん。」
三條くんが片肘をついて、ベッドをぽんぽんとする。誘導されていることを察した私は、静かにそこへ足を伸ばし、三條くんと同じ布団に潜り込んだ。
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