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紫先生は続けて二本の煙草をゆっくりと吸っていた。煙草を挟む指、咥える唇、吐き出される白い煙。
全てが一枚の絵のように脳裏に焼き付けられていく。
吸殻を携帯灰皿へ押し込んで、ポケットへしまった紫先生は、フェンスから離れるとんーっとひとつ伸びをしてから私の方を向いた。
「そろそろ戻るけど、どうする?」
へ?どうするって……?
「まだ授業終わるまで時間あるでしょ?まだここに居るなら鍵、渡しとくから」
そう言って取り出した一つの鍵。青色のタグの付いた鍵を私の前に差し出した。
「生徒にそんなもの渡していいんですか?」
しかもそんな簡単に。心の中でだけそう言っていると
「大丈夫でしょ。だって片桐さんなら他の子に言ったりとかしなさそうだもの」
なんてあっけらかんと言ってのけた。
「授業サボる様な不良なのに?」
「でも普段の授業態度には問題ないし、成績も上位だし、たまにサボるくらい可愛いもんよ」
「サボり推奨の教師って……」
「物わかりの良い教師って言って」
そう言って笑う紫先生の手から鍵を受け取る。
「じゃあ鍵は放課後にでも返しに来てくれたらいいから」
ドアに向かって歩き出した先生が振り返って言う。
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