道端の石はかく喋る

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道端の石はかく喋る

 ……うざったい。  夜の帳とやらが落ちた頃、私は仲間をつるんでた。  いや、正確にはつるんではいない。私は彼らから少し離れた場所で、我こそが夜闇の灯台と怪しく笑う携帯電話を見下ろしていた。  琥珀のように磨かれ、塗料を塗られた私の爪は毒々しい。  そんな私の爪が折れる。すがるように文字を打ち続けることは、マニキュアで弱った爪には重労働だったらしい。 「ミキ、早くしなよ」  氷の方が温かかろうという声色が私の偽りの名を呼ぶ。――ここでは誰も、本名なんて名乗りはしない。 「あたし、このコンビニの店長に昨日イヤラシイ目で見られたんだよね」 「ヒドォーイ。皆のサツキちゃんをそんな目で見るなんてぇ。ね、ミキもそう思うでしょ」  うざったい。  みんな、ボスのサツキには逆らえない。だから、こんな人モドキに、私は万引きを教唆される。 「酷いよね? ミキ、なんとか言いなさいよ」  あの猫なで声のどこにこんな毒が隠されていたのだろう。うざったい。二重人格者が。 「ああもういいよナツ。ミキはあたしのために怒りで声がでないんだよねぇ。そんな仲間思いのミキに、相談があるんだぁ」  カツラまでつけて盛った髪に、スカートはもはやスカートではないほど短い。うねった髪を指先で持て余すサツキは、そのハイエナみたいな目をこちらに向けた。 「ハーゲンダッツ」 「……」  私が黙っていると、ナツが私の腹を蹴った。口の中に嫌な臭いがせり上がる。 「わかんないの? ハーゲンダッツ、サツキとあたしの分二つ。盗んでくるの。あなたが」  こんな目にあっても、私には助けを求めるアテがいない。  父も母も昨日死んだ。工場の二階に、天井からぶら下がって。借金苦だった。考えなくてもわかった。  ――私の、せいで。  ろくに学校にもいかない私が、湯水のようにお金を使ったから。  だから、私は今日、二人を殺す。
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